進化の特異事象
更新日:2006/12/31
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概要
本書はこぢんまりとしてはいるが内容は深く,生命の起源と進化の道筋を決めてきた重要な段階や関門について深く考察している。著者の Christian de Duve は細胞生物学の先駆者の一人でノーベル賞受賞者である。60 年前,分子生物学の創始者たちに大きな影響を与えた Erwin Schrodinger の “生命とは何か” に対する現時点での答えが本書なのである.de Duveは,生命の歴史に見られるいくつもの特異的転換点に位置する特異事象(singularitiy)に着目し,生命誕生以前の状況の鋭い考察,生命の歴史全体の概観を行っている。特異事象(singularity)としては,生きものすべてを生み出したたった1 つの祖先や,普遍的遺伝暗号,一系統からなる真核生物の起源などがあげられる。生命の基本となる物質の誕生から人類の起源まで,生化学と系統分類を通して見ていく旅へのいざないが本書の狙いである。次々と現れる転換点が,原始地球の特徴や状況の進展に関する仮説と並行しながら時系列に沿って紹介してあり,転換が起こるたびに複雑さがもたらされる仕組みと理由を説明している。
目次
概説 進化における特異的転換の仕組み
生命体の構築単位
化学進化
宇宙化学
鏡像異性体の斉一化
原始代謝
代謝と酵素
合同
最初の触媒
ATP
分子の解剖
生命の何でも屋
基転移:生化学の鍵
なぜリン酸か
なぜアデノシンか
電子とプロトン
電子伝達のエネルギー論
電子伝達の生体エネルギー論的機能
触媒
共役の仕組み
最初の電子伝達
チオエステル
チオエステルと電子伝達
チオエステルと基転移
なぜ硫黄か
鉄について一言
RNA
現存のRNA
RNA の起源
RNA の原始代謝の揺らん期
RNAの誕生
全RNA の祖先
RNA 世界
タンパク質
今日のタンパク質合成
タンパク質の出現
翻訳と遺伝暗号
タンパク質の成長
DNA
DNA の誕生
なぜDNA か
いつからDNA か
膜
膜の一般的構造
膜タンパク質
膜の誕生
プロトン駆動力
プロトン駆動共役機関のつくり
プロトン駆動型電子伝達の代謝
機能
プロトン駆動力の起源
再び原始代謝
概観
化学の優位
選択の力
生命発祥の地
生命の確率
生命は特異事象か?
原初共通祖先(LUCA)
LUCA の実像を再点検する
LUCA の誕生
ウイルス
最初の分岐
分子系統学
原核生物の分岐
真核生物の原型
LUCA の再来
真核生物
真核細胞の特徴
真核細胞の起源
原始食細胞仮説
宿命的出会い仮説
酸素
内部共生体
ミトコンドリアとヒドロゲノソーム
葉緑体
その他の内部共生体
多細胞生物
創始者
おおもとの生物
ホモ・サピエンス
人類進化の俯瞰
その機構
人類はどこへ?
進化
偶然,それとも必然?
環境の責任か?
むすびのことば
文 献
索 引
あとがき
著者紹介
クリスティアン・ド・デューブ
ロックフェラー大学のAndrew W. Mellon 桂冠名誉教授,Louvain カトリック大
学名誉教授,Christian de Duve 細胞病理学研究所の創設理事長である.1974 年
にノーベル医学生理学賞をAlbert Claude,George Palade とともに受賞し,現在
も生命の起源に関する根元的な研究を指揮している.著書:Life Evolving: Molecules,
Mind, and Meaning(2002),Vital Dust: Life as a Cosmic Imperative(1995),Blueprint
for a Cell(1991),A Guided Tour of the Living Cell(1984)など.
監訳者紹介
中村 桂子
JT 生命誌研究館館長.著書:『自己創出する生命』(哲学書房),『生命科学者ノート』
(岩波書店),『“生きもの”感覚で生きる』(講談社),『ゲノムが語る生命─新しい
知の創出』(集英社).訳書:『ワトソン遺伝子の分子生物学(第5 版)』(東京電機
大学出版局),『やわらかな遺伝子』(紀伊国屋書店),『細胞の分子生物学(第4 版)』
(ニュートンプレス),『生命─この宇宙なるもの』<新装版>(新思索社)など.