ユーロの崩壊 ヨーロッパにおける金融失敗からの脱出ルート
更新日:2012/04/30
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・ 序文,目次
概要
ユーロの崩壊は,発足当初の原案にあった致命的な欠陥の上に,欧州中央銀行(ECB)が10 年間にわたって状況判断と政策上の誤りを続行してきたことに原因がある.さらに,フランス首脳が強要した長期的な通貨ナショナリズム,連邦準備と同様にユーロ当局がデフレ恐怖症に屈したことも要因である.著者は,ユーロ崩壊を起こした犯人は誰かという裁判形式で,歴史を振り返って詳細な分析を進めており,中小各国が陥った財政破綻はECB により創られた信用バブルとその崩壊が原因であるとし,ユーロを救うための現実的な複数の提案を示す.それにより,法的で現実的な脱退経路や新生ユーロへの途を示す.2012 年改訂版からの翻訳.
目次
謝辞
一九九九年以降のドル、ユーロの推移
序文
第一章 ユーロ関係者を告発する
略式起訴
第二章 ユーロ・バブルの始まり
オトマール・イッシングの歴史的考察
最初の大きな金融政策決定は大きな誤りであった(一九九八– 九九年)
インフレがあまりにも低すぎるという恐れが最初からECBの政策に影響した
一九九九– 二〇〇〇年におけるユーロの急落に関して通貨面での原因を否定するECB
一九九九– 二〇〇〇年における政策の誤りが二〇〇一– 二〇〇二年の不況に対する
ECBの政策対応を制約した
二〇〇三年春における金融の狂気への長い旅路
イッシング教授の悪名高きスライド・ショー
IMFはまたもや誤っていた! 二〇〇三年にユーロ圏のデフレについて警告
イッシング教授への質問:なぜわざわざそんなことをしたのですか?
金融不均衡に関する警告サインは二〇〇三– 二〇〇四年にすでに明らかになっていた
ECB高官――とバーナンキ教授――は欧州の銀行業ブームに声援を送った
ユーロ・バンキングの帝国建設
ユーロ導入に伴う金融統合が信用バブルをカモフラージュしていた
ECBはヨーロッパの銀行によるドル融資の激増を無視した
EMUの欠陥が金融に関する警告発令を阻害した
トリシェはアジアのドル圏を攻撃することでフランスの外交政策を追求した
二〇〇三年半ばから二〇〇五年末までECB金利はなぜ不変だったのか?
二〇〇五年に、もし金利が二〇〇 bp高ければ信用バブルを阻止できただろうか?
二〇〇六年– 二〇〇七年上半期に金融緩和を撤回
買収の熱狂:ABN – AMRO銀行を巡る買収闘争
第三章 バブルの崩壊
米国や欧州では金融面で進歩はないのか?
二〇〇七年夏における信用地震
二〇〇七年八月九日の金融市場の膠着状態に対するECBのパニック的な対応
ECB(とFED)は支払い不能の速やかな診断に失敗した
ECB(とFED)は素晴らしい危機対応を無視
二〇〇七年秋– 〇八年の反事実的な金融史
信用の地震に対するECBの対応における三つの悪しき前提
計量経済学と統計で盲目的になっていた
ECBは二〇〇八年にみずからのことを一九七三年当時のブンデスバンクの生まれ
変わりであると信じていた
石油価格高騰に伴うインフレの危険というECBの分析には大きな欠陥があった
にせものの分離原則がECBの呪文になる
二〇〇七年の激震を受けた危機介入策からの脱出プランがない
リーマンの破綻を受けてフランクフルトの金利設定者はいよいよ立てこもる
二〇〇八年後半、ヨーロッパの銀行の支払い能力にかかわる危機は深刻化
弱いEMU参加国政府はデフォルトを起こすだろうか?
不況の深刻化に伴いECBの金融政策は的外れとなった
ECBは危機の際に過ちを犯したと認めることは拒否
二〇〇九年春、フランス外交が大成功を収めてユーロ生存の危機は解消
ECBは大勢に従うことをついに拒否した:量的な緩和を拒否
第四章 審理
審理の計画
EMU弁護論についての最初の記載――存続した!
第二の主張:ユーロは価値保存手段としてこれまでの通貨と同じく適切
存続し技術的な障害はなかったという主張の問題点 234
第三の主張:ECBは最高水準の予測方法を開発した
第四の主張:ECBは汎欧州的で各国の利益を無視した
第五の主張:EMUは物価の安定と経済の安定を達成した!
安定性の主張にかかわる問題
反事実の危険性――古きBUBAならもっとうまくやっただろう!
第六の主張:EMU発足前後におけるインフレの誤った比較
第七の主張:ECBは「骨の折れる状況下」でよくやった
第八の主張:EMUは地域や金融の効率性を促進する
第九の主張:ECBは二〇〇七年八月の地震への対応について賞賛に値する
第十の主張:責任を転嫁する
第十一の主張:懸命な努力にかかわる誇りと満足
ジャン= クロード・トリシェ総裁の証言の序文
トリシェ氏の最もひどい主張
トリシェが発した警告と彼が無視した警告
トリシェ氏は擁護不可能な分離原則を擁護
二〇〇七年九月の驚くべき誤診に関するトリシェ氏の釈明
トリシェ氏は米国の金融の危険性を無視していた
トリシェ氏はフランス通貨外交官という古い帽子をかぶっている 272
ユルゲン・シュターク教授の証言
クリスティアン・ノワイエの証言
ECBとFEDはモンキー・レンチを投げ込んだのか?
アラン・グリーンスパンは、FED(あるいはECB)に責任があるという説を否定
信用バブルを生みだしたのが中央銀行ではないことについてベン・バーナンキは強硬 282
グリーンスパンとバーナンキの指摘した証拠に反論する
FEDに対する評決がユーロの審理にもつ意味
ECBはなぜ告発を免れ続けているのか?
第五章 EMUは死んだ:EMUよ永遠なれ!
大胆な是正策:パリとベルリンが新しい通貨同盟(EMU – 2)を創設
EMU – 1よりもラテン貨幣同盟に近いEMU – 2
新しい欧州通貨条約
EMUの全面的な解体と自由変動制への復帰 319
双子の脅威――米国の通貨戦争とフランスの金融ナショナリズム
参考文献
著者紹介
ブレンダン・ブラウン(Brendan Brown)
著者のブレンダン・ブラウンは,ロンドンで活躍している国際経済学者.三菱UFJ証券インターナショナルの主任エコノミスト.国際的な金融問題に関する多数の著作がある.著作では,アメリカや日本,欧州の財政問題,為替レートを含む国際的な資産市場の価格などをテーマとして取りあげており,それを近年の傾向と歴史的な話題の両面から論じている.ブレンダン・ブラウンは,日本と欧州の金融関連メディアに対して定期的に寄稿している.ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで博士号を取得,シカゴ大学でMBA を取得した.
訳者紹介
田村 勝省(たむら かつよし)
1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.
訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『アメリカ連邦準備制度の内幕』(一灯舎,2010 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)
『ユーロ 統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望』(一灯舎,2011 年)
『世界開発報告2011 紛争,安全保障と開発』(一灯舎,2012 年)
『世界雇用情勢2012 雇用危機の深刻化を予防』(一灯舎,2012 年)