世界開発報告2010 開発と気候変動
更新日:2010/08/31
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・ 序文,目次
概要
気候変動は特に途上国を中心にすべての諸国にとって脅威である.気候変動が開発政策にとって意味するものを理解し,多角的に対応する必要がある.開発政策に対して気候変動問題が持つ意味を理解することが,『世界開発報告2010』の中心的な目的である.各章の冒頭では,重要なメッセージとして,以下のことが述べられている.
・気候変動の最大の影響が及ぶのは貧困国と貧困層である.今行動を起こし,共に行動すれば,温暖化を2℃程度に維持する追加的なコストは僅少であり,より大きな気候変動がもたらす損害を考えればこのコストは正当化できるだろう.
・気候変動がいっそう進行することは避けられない.気候変動の対応策を必要な規模で実行するためには資金,努力,創意工夫,そして情報が必要である.
・気候変動により,世界中の人にとって十分な量の食料を生産することがむずかしくなるだろう(今世紀末に世界の人口は90 億人になると予想されている).農業生産性の伸びを現状の2 倍にする必要があるだろう.
・気候変動問題を解決するためには,エネルギー・システムを根本的に転換することが必要である.先進国が率先して取り組む必要がある.
・気候変動のようなグローバルな規模の問題には国際的な調整が必要である.環境vs 公平性という二分法を打破しなければならない.
・気候変動対策のための資金は大きく不足している.そのため既存の炭素市場を改革し,炭素税を含め新たに民間を中心に資金源を開拓することが必要である.国際的な財政移転と排出権取引などが必要になるだろう.
・気候に関してスマートな技術を普及させるためには,国際的な取り組みが必要である.官民両部門でR&D を促進し,革新的な解決策を発見する必要がある.途上国へは今すぐ使える設備を輸送するだけでなく,吸収能力の強化も必要である.
・気候変動との戦いで成果を上げるためには,資金と技術の国際的な動員を超えて,気候変動への対応にかかわる心理的,組織的,および政治的な障壁に取り組む必要がある.
気候に関してスマートな世界を実現可能なものとするために,以下のことを提言している.1:気候,インフラ,行動様式,そして組織に内在する執拗な慣性に取り組むためには今行動を起こす必要がある.2:必要とされる成長と賢明で負担可能な開発形態の選択を調和させるためには共に行動を起こさなければならない.3:必要とされるエネルギー革命に投資し,急速に変わりつつある地球への適応に必要な措置をとるという,従来とは異なる行動を起さなければならない.
目次
序文
謝辞v
略語およびデータ注
『世界開発報告2010』の重要なメッセージ
概観 ――経済開発のために気候を変える
行動を起こすことを支持する理由
もしわれわれが今,一緒に,違った行動を起こせば,気候に関してスマートな世界は手に届くところにある
実現に向けて:新しい圧力,新しい手段,新しい資源
1 気候変動と経済開発との結び付きを理解する
気候変動を緩和しないのであれば,持続可能な経済開発を実現することはできない
トレードオフを評価する
世界的な緩和に向けた取り組みを先送りするコスト
好機をとらえる:即座の刺激と長期的な転換
フォーカスA 気候変動の科学
Part Ⅰ
2 人間の脆弱性を軽減する:人々の自助努力を支える
適応的管理:気候変動と共に生きる
物理的リスクの管理:回避可能なリスクを回避する
金融リスクの管理:不測の事態に備える柔軟な手段
社会的リスクの管理:コミュニティが自己保護できるように支援する
2050 年までを見通す:どのような世界になっているか?
フォーカスB 気候変動下の生物多様性と生態系サービス
3 90 億人を養い,自然のシステムを保護するために土地と水を管理する
天然資源管理のファンダメンタルズを整備する
一定量の水からの生産量を増やすと同時に,水管理技術を向上させる
農業における生産性を向上させると同時に環境を保護する
漁業及び養殖水産の生産を増加させると同時に保全を改善する
柔軟な国際協定を締結する
信頼できる情報が,適切な天然資源管理には不可欠である
炭素,食料,そしてエネルギーの価格設定が踏み台になるだろう
4 気候変動対策を犠牲にすることなく経済開発を促進する
競合する目的をうまく調整する
世界が向かうべきところ:将来に向けて,持続可能なエネルギーへ転換する
エネルギー効率化によって節約を実現する
既存の低炭素技術を普及させる
革新と先進技術を加速化する
政策は統合しなければならない
Part Ⅱ
5 経済開発を世界的な気候レジームに統合する
気候レジームを構築する:気候と経済開発の間の緊張を克服する
途上国の行動を世界的なアーキテクチャーのなかに統合するための選択肢
途上国の緩和に向けた取り組みに対する支援
適応を気候に関してスマートな開発に統合する国際的な取り組みを促進する
フォーカスC 貿易と気候変動
6 緩和と適応に必要な資金を調達する
ファイナンスの不足
既存の気候ファイナンスの手段における非効率性
気候変動資金の規模を拡大する
透明で,効率的な,そして公平な資金の利用を確実にする
必要とされる資金と資金源を適合させる
7 革新と技術の普及を加速化する
ツールや技術,制度が適切であれば,気候に関してスマートな世界を実現できる
国際的な協力とコスト分担は,国内の取り組みを活用して革新を促すことを可能にする
公的なプログラムや政策,制度は革新とその普及を推進する
8 行動様式や制度がもつ慣性を克服する
個人の行動様式の変化を活用する
国家を再び持ち込む
気候政策について政治的に考える
気候に関してスマートな経済開発は自宅から始まる
注
参考文献
参考文献についての注
用語解説
主要指標
表A1 エネルギー関連の排出と炭素排出原単位
表A2 土地ベースの排出
表A3 一次エネルギー総供給
表A4 自然災害
表A5 土地,水,及び農業
表A6 国富
表A7 革新,研究,及び開発
出典と定義
記号と集計値
主要世界開発指標
データの出典と方法
国の分類と総括値
用語と対象国
テクニカル・ノート
記号
データの表示方法
表1 主要開発指標
表2 貧困
表3 ミレニアム開発目標:貧困の撲滅と生活の改善
表4 経済活動
表5 貿易,援助,及び金融
表6 その他諸国の主要指標
テクニカル・ノート
統計手法
世界銀行アトラス方式
索引
訳者紹介
田村 勝省( たむら かつよし)
1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店, ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.
訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『大転換 ――帝国から地球共同体へ』(一灯舎,2009 年)
『企業の名声 ――トップ主導の名声管理・回復十二か条』(同,2009 年)
『ウォール街の崩壊の裏で何が起こっていたのか? 』(同,2009 年)
『ニューエコノミーでアメリカが変わる!――幻の富から真の富へ、オバマ大統領への期待』(同,2009 年)
『世界給与・賃金レポート――最低賃金の国際比較 組合等の団体交渉などの効果、経済に与える影響など』(同,2010 年)
小松 由紀子(こまつ ゆきこ)
東京外国語大学卒,東京銀行を経て,現在日本語教師.
訳書
『企業の社会的責任(CSR)の徹底研究』[共訳](一灯舎,2007 年)
『歯と口腔』(同,2008 年)
『中学生ベンのe 起業奮闘記』(同,2008 年)
『前立腺疾患』(同,2009 年)
『世界銀行アトラス』(同,2009 年)