ユーロ 統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望
更新日:2011/05/31
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・ 序,目次
概要
2002年1月にスタートした新通貨ユーロはその後も多くの議論の的になった。ヨーロッパ統合の究極的な勝利と見る向きもあり、また、長く求めてきたヨーロッパの安定に対する無謀な不安要因とも考えられた。しかしユーロは第一義的には、欧州経済の管理を改善する手段として貨幣の脱国家化を達成した。アメリカに匹敵する統一市場の統一通貨は企業の活動を単純化してリスクを少なくした。他方生活水準の低下と失業の増大を招いた国もある。
著者のデイヴィッド・マーシュはジャーナリストとして、ユーロが当初のビジョンから実現にいたる複雑な過程を非常に包括的にたどった最初の著者である。そこでは、イギリス、アメリカ、そしてドイツとフランスが主役を演じた。この過程での主要な人物の発言と、厳しい議論のやりとり、数百の機密文書をたどりながらこれを詳細に克明に検証してまとめている。発足後の当初の10 年間での厳しい問題は、その後も景気の変動とともにもっと複雑になり解決が容易でないことが明確になっている。最近のユーロ崩壊の危機はその発足以前にすでに危惧されたことであり、財政的に強い北の国、ドイツ、フランス弱いギリシャ、ポルトガル、アイルランド、スペインを一緒にスタートした強引さが後を引いている。しかし、マーシュによればこれら南の諸国が何とか現体制から離れない方が得策であり、離れたときの代価のほうがより大きいという。金融活動を考えるとイギリスはユーロへの参加は利益にならないが、長期的にはイギリスが参加しないままではユーロは不完全であろうとしている。
結論として、ユーロの存続した10 年間では敗者も勝者もいずれも存在していない。しかし今後は、両方が出現することになる。最初の10 年間の教訓は、単一通貨ユーロが今後無傷で生き残れるかどうか全く不確実になったということである。
目次
はじめに:ユーロの物語
第一章 血と金
金本位制の遺産
ドイツ連邦銀行の前身
危機管理
金の同盟
ドイツの金融支配
ドルの登場
第二章 震源地で
繁栄への道 55
対立と論争
マルク切り上げをめぐる戦い
通貨同盟の胎動
金をめぐる小競り合い
危機下のポンド
拡大と深化
綱渡り
対立点の表面化
混乱と対立
自己主張の機会
第三章 マルクの横暴
欧州の戦術
速度を上げる
ECUの誕生
強烈な反インフレ政策
第四章 来るべき試練
力の交換
不可解な連帯
建設と再生
保証された不安定性
専門家委員会
苦情の収集
第五章 衝撃波
根本的な変革
祝賀と矛盾
カウントダウンの開始
エミンガー書簡の再登場
フランの戦い
第六章 欧州の運命
パフォーマンスの劇的なシフト
第七章 不均衡に対処する
率直な無遠慮さ 358
問題含みの意思決定
心臓部における不振
先鋭化する危機
第八章 審判
表面的な慰め
経済の脱国家化
経済調整
ロンドンの重要性
マルクの精神
不気味な組み合わせ
将来のパターン
試練を乗り越えて
著者紹介
デイヴィッド・マーシュ(DAVID MARSH)
公的通貨・金融機関フォーラム(OMFIF)の共同議長,SCCO インターナショナル社会長,バーミンガム大学名誉教授.1978-95 年にフィナンシャル・タイムズ勤務,その間にフランス・ドイツでの駐在経験があり,ヨーロッパ担当の編集主任も務めた.2000 年に大英帝国より勲爵士(CBE)を叙勲され,2003 年にドイツ連邦共和国功労賞を授与された.
著書
“Germany―Rich, Bothered and Divided”( 1989年)
“The New Germany―At the Crossroads(” 1990年)[邦訳『新しいドイツ』(共同通信社,1993年)]
“The Bundesbank―The Bank that Rules Europe”( 1992年)[邦訳『ドイツ連銀の謎―ヨーロッパとドイツ・マルクの運命』(ダイヤモンド社,1993 年)]
“Germany and Europe―The Crisis of Unity”( 1994年)[邦訳『ドイツ復活のドラマ―統一と危機の五年間』(ダイヤモンド社,1995 年)]
訳者紹介
田村 勝省(たむら かつよし)
1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.
訳書
『アメリカ大恐慌(上・下)』(NTT 出版,2008 年)
『ウォール街の崩壊の裏で何が起こっていたのか?』(一灯舎,2009 年)
『世界開発報告2010 開発と気候変動』[共訳](一灯舎,2010 年)
『アメリカ連邦準備制度の内幕』(一灯舎,2010 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)