世界開発報告2009 変わりつつある世界経済地理
更新日:2008/11/30
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概要
2009年度の世界銀行の開発報告は経済発展における都市化の役割を中心とした世界経済地理の詳細分析である.『変わりつつある世界経済地理』という副題で,19世紀,20世紀における欧米や日本のような先進諸国の経済発展において見られた人口の密集化,産業の立地と労働の移動及び輸送インフラの効率化,政情の安定と不安定をそれぞれ,『密度』,『距離』,『分裂』の3つの側面から捉えて分析する.
これを開発途上国に当てはめると,経済地理における密度,距離,そして分裂という3つの次元に沿って,変化する有利な場所が重要になる.すなわち,都市が拡大して経済活動の密度が高まり,労働者や企業がこの高い密度を求めて移住してきているときに,距離をちぢめてくれるような交通インフラが整備され,特化した製品生産に対して規模の利益や貿易の機会を手にするためにあらゆる障壁を低くして世界市場に参入するときに政治的・社会的分裂が起こらないような場所である.このような場所が発展のために重要な条件となる.これが『世界開発報告2009』の結論である.
この結論は議論を呼ぶ可能性がある.というのは,スラム街住民はいまや世界全体で10億人にも達しているにもかかわらず,都市への人口の集中が継続しているからである.この10億人は,グローバリゼーションに伴う恩恵に無関係な遅れた地区に住んでいるからで,この世界の「ボトム10億人」は世界市場にアクセスすることもできず,高い貧困率と死亡率の罠に陥ったままである.他方では,ますます豊かになり長生きするようになっている人々がいる.このような背景で登場するのが,『成長は場所的に均衡がとれていなければならない』という処方箋である.
しかし成長は,都市や農村などと不均衡であっても貧困削減には『包容的』でありうる.というのは稠密な経済活動とは無縁な場所に生活している人々でさえ,富の集中化からの恩恵を享受できるからである.そこで,成長を加速しそれを共有するためには,政府は経済統合を促進しなければならない.本報告書の考えでは,これは都市化,地域開発,地域統合の政策論議の中できわめて重要な概念である.ところがこの3つの議論にはこれまで場所にこだわった介入策が強調されすぎている.本書では,このような議論を再構成して,統合のためのあらゆる手段を動員することを提案する.場所にとらわれない制度,場所と場所の間をつなぐ接続インフラ,場所を絞った介入策という3つの手段をつかうべきである.これらの手段の調整によって途上国は自国の経済地理を作り変えることが出来る.それがうまくいけば,たとえ成長は不均衡であっても経済発展は所得拡大を含む包容的なものになるだろう.
目次
序文
謝辞
略語およびデータ注
変貌する経済地理 本報告書の一覧:密度,距離,分裂
概観
場所と繁栄
世界はフラットではない
市場が経済的風景を形成する
開発政策を整備する
本報告書をナビゲートする
対象範囲
用語
本報告書の構成
変貌する経済地理 北米:距離の克服
Part I 発展を3 次元で見る
第1章 密度
密度の定義
経済的集中――豊かなほど密度が高い
収斂――農村部対都市部と都市内部
現在の途上国との相違
第2 章 距離
距離の定義
先進地区における経済的集中
乖離してから収斂する――先進地区と後進地区の間で
現在の途上国にとって何が違うか
第3 章 分裂
分裂の定義
経済的な集中
乖離して,それから収斂する
地理,グローバル化,発展
現在の途上国にとっての相違
変貌する経済地理 西ヨーロッパ:分裂の克服
Part II 経済地理を形作る
第4 章 規模の経済と集積
集積経済のガイド
異なった領域
場所のポートフォリオ
市場諸力に関する懸念
第5 章 要素移動性と移住
重商主義からグローバル化,自給自足,そして再び元に戻る
労働移動性:一世代にわたる分析
移住を管理するための実際的な政策
第6 章 輸送コストと特化
何が起こったのか:2 世紀にわたる経験
輸送コストと規模の経済:20 年間にわたる分析
何をすべきか:途上国世界の輸送政策
輸送:ますます重要な部門
変貌する経済地理 東アジアの距離と分裂
Part III 政策論議を再構成する
第7 章 混雑なしの集中――包容的都市化のための政策
場所のポートフォリオ管理に関する原則
統合の枠組み
実際の枠組み
包容的な都市化の戦略
第8 章 均一ではなく統一――地区開発のための効果的アプローチ
人は機会を求める
国は統一を求める
後進地区と先進地区を統合するための政策枠組み
実働中の枠組み
バルカン化を回避する:経済統合の政治的な利益
第9 章 国境を廃して勝者になる――貧困国を世界市場に統合する
供給拡大のための地域統合,需要拡大のための世界統合
統合した近隣地域の構築:枠組み
実働中の枠組み
変貌する経済地理 サハラ以南アフリカの密度,距離及び分裂
参考文献についての注
注
参考文献
主要指標
主要世界開発指標
訳者紹介
田村 勝省
1947年生まれ。東京外国語大学および東京都立大学卒業。
旧・東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,
現在は関東学園大学経済学部教授,翻訳家。
主な訳書に,『新しい金融秩序』(日本経済新聞,2004年),
『ウォール街 欺瞞の血筋』(東洋経済新報社,2005年),
『サッカーで燃える国 野球で儲ける国』(ダイヤモンド社,2006),
『グーテンベルクの時代』(原書房,2006 年),
『ドルはどこへ行くのか』(春秋社,2007 年),
『より高度の知識経済化で一層の発展をめざす日本』(一灯舎,2007 年)
『世界開発報告2008』(一灯舎,2008 年)
『謎・なぞ ――歴史に残るミステリー』(一灯舎,2008 年)
などがある。