マクミラン経済学者列伝 ケインズ
更新日:2014/10/28
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・ 序文,目次
概要
ケインズ理論は1970 年代以降,時代遅れとして葬られてきた.しかし,2008年の金融危機を受けて見直され,近年ではケインズの「復活」を耳にすることが多い.それは,経済分析を行う際にケインズが「不確実性」を重視していたからだ. 本書はケインズの生涯を辿るだけでなく,ケインズ理論の本質は何か,なぜそれが主流派経済学者に受け入れられなかったのかを詳細に説明し,また,ケインズ以後の主な経済学派の特徴を解説している.
ケインズが当時主流となっていた経済理論に欠陥があることを確信したのは,長引く失業の原因を主流派経済学が説明できなかったからだ.本書は,ケインズがどのようにして革命的な理論を『一般理論』として確立したかを説明し,それが近年の金融危機を含めて今日の経済問題の解決にどのように役立つかを解説している. さらに,ノーベル賞を受賞したサミュエルソンやヒックスなどの経済学者でさえも『一般理論』を誤って理解していたか,あるいは完全には理解しておらず,このことに加えて,反共産主義思想や経済学の数学化などが,本当のケインズ理論を不明瞭にし,その普及を阻んだと指摘している.
本書の特徴の一つは,古典派理論の制限的な公準である「中立的貨幣の公準」,「粗代替性の公準」,「エルゴード性の公準」を用いて,古典派理論と『一般理論』を比較していることだ.それによって,『一般理論』の一般性を明確に示している.また,「ケインズ復活」の大きな要因である不確実性の概念を,エルゴード性を用いて詳しく解説していることも本書の特徴だ.
ケインズに関する本は既に数多く出版されているが,ポストケインズ派の体表的な経済学者による本書は,ケインズの経済分析に関する正統的な解説書であり,ケインズの理論の本質を再認識させてくれる一冊である.
目次
序文
第一章 ケインズとケインズの革命的考えの紹介
Ⅰ 初期のケインズの知的環境
Ⅱ ケインズの知的な成長
第二章 第一次大戦とその余波がケインズの考えに与えた影響
第三章 ケインズの中道:自由主義は真に新しい道である
第四章 ケインズの『一般理論』の前と後
Ⅰ ケインズの革命的理論対主流の古典派理論
Ⅱ 公準と理論の構築
Ⅲ 中立的貨幣の公準
Ⅳ 粗代替性の公準
Ⅴ 不確実性とエルゴードの公準
Ⅵ ケインズの革命的な分析を阻止する
第五章 貯蓄と流動性――ケインズの一般理論と古典派理論の概念上の相違
Ⅰ 古典的な本とはなにか
Ⅱ セーの法則
Ⅲ 総供給関数
Ⅳ 総需要関数
Ⅴ フリードマンによる別の貯蓄の定義についての小論
第六章 ケインズの総需要関数のさらなる識別化
Ⅰ 二つの総需要構成要素
Ⅱ 投資支出
Ⅲ D2の他の構成要素はどうか
Ⅳ 政府の税と支出
第六章の付録:総供給関数と総需要関数の導出
第七章 お金、契約および流動的金融市場の重要性
Ⅰ 貨幣契約の実体
Ⅱ 契約、市場、および流動性というお守り
Ⅲ 流動性と契約
Ⅳ 金融市場の役割
Ⅴ 金融市場とケインズの流動性理論
Ⅵ 市場秩序の必要性
Ⅶ にわか景気とそれに続く不景気
Ⅷ 現実は、予め決められていて、不変であり、エルゴード的に知ることができるだろうか。それとも、非エルゴード的で、知ることはできず、変化するものだろうか
Ⅸ 重大な決定とシュンペーターの起業家精神
Ⅹ 政策の立案
第八章 第二次世界大戦と戦後の開放経済体制
Ⅰ 戦後の開放経済体制に対する計画
第九章 古典派の貿易理論対ケインズの国際貿易と国際収支の一般理論
Ⅰ 古典派の国際貿易理論の唱える利益
Ⅱ 国際貿易と自由化された市場――事実
Ⅲ 貿易、国の富み、比較優位の法則
Ⅳ 為替相場切下げ(平価切下げ)は常に貿易収支赤字を改善できるだろうか。
第十章 世界通貨体制の改革
Ⅰ 第二次大戦後初期の歴史の教訓
Ⅱ ブレトン・ウッズの経験とマーシャル・プラン
Ⅲ ケインズ、自由貿易、および完全雇用を促す国際決済システム
Ⅳ 国際決済システムの変更
第十一章 インフレーション
Ⅰ 契約、価格、インフレーション
Ⅱ ケインズ的な世界でのインフレーションの進行
Ⅲ 所得インフレーション
Ⅳ 所得政策
第十二章 ケインズ革命:誰がコマドリを殺したかを示す証拠
Ⅰ 硬直的賃金と失業問題
Ⅱ ケインズ革命を実際に中絶させたのは誰か
Ⅲ サミュエルソンの新古典派総合ケインズ理論
Ⅳ ケインズ理論のアメリカへの到来
Ⅴ サミュエルソンはどのようにしてケインズの理論を学んだのか。
Ⅵ サミュエルソンの新古典派ケインズ理論とケインズ/ポスト・ケインズ派理論の間の公準についての違い
Ⅶ ヒックスのIS–LMモデルはどうなのか。
Ⅷ 結論
後書:二〇〇八年から〇九年の大金融危機
Ⅰ 何が二〇〇八年の経済・金融危機を引き起こしたか。
Ⅱ 金融市場政策
Ⅲ 二〇〇九年に実体経済を回復させる政策
訳者あとがき
訳者による参考文献
参考文献
原注
索引
著者紹介
ポール・デイヴィッドソン(Paul Davidson)
ポール・ディヴィッドソンは『ポスト・ケインズ派経済学雑誌』の共同設立者兼編集者である.デイヴィッドソンは18 冊の本を著しており,また220 以上の学術論文を単独,共著あるいは編集して発表している.ペンシルベニア大学,ラトガース大学,ブリストル大学(英国),およびテネシー大学で教鞭を執った.また,ニース大学,高等研究所(ウィーン),ストラスブルグ大学の客員教授となった.デイヴィッドソンは,コンチネンタル石油会社の経済調査部門の准局長,ブルッキングス経済学パネルのメンバー,その他多数の機関の顧問を務めている.それらの機関は,将来のエネルギー政策プロジェクト(フォード財団),エクアドル中央銀行,ヴェネズエラ中央銀行,ウルグアイ中央銀行,汎アメリカ資本市場協会,米連邦取引委員会,ウェスタン・ユニオン電信会社,チェース・エコノメトリックス・アソシエッツ,アラバマ州,ニューヨーク州消費者保護局,アメリカ国際通信局などである.
訳者紹介
小谷野 俊夫(こやの としお)
静岡県立大学名誉教授.
元学習院大学経済学部非常勤講師,元早稲田大学商学部非常勤講師,元明治大学商
学部非常勤講師.1969 年早稲田大学政治経済学部卒.1975 年ペンシルベニア大学
ウォートンスクール修了(MBA).第一勧銀調査部ニューヨーク駐在シニア・エコノ
ミスト,DKB 総研経済調査部長を経て静岡県立大学教授.
翻訳書に『マクミラン経済学者列伝 アダム・スミス』(2014),『連邦準備制度と金
融危機』(2012)いずれも一灯舎,共訳書に『欧州中央銀行の金融政策』(2002),『ア
メリカの金融政策と金融市場』(2000)いずれも東洋経済新報社,立脇和夫博士と
の共訳がある.