世界雇用情勢2014 雇用なき回復のリスク?
更新日:2014/05/25
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・ 要約,目次
概要
年次レポートである『世界雇用情勢』は,世界全体および各地域における雇用,失業,部門別雇用,脆弱雇用,労働生産性,非公式雇用,および勤労貧困層に関する最新の推定値を示すとともに,国レベルの問題や労働市場に関する傾向を分析している.
入手可能な最新のデータに基づくとともに,マクロ経済の傾向や予測を考慮に入れて,労働市場に関する現在の情勢や挑戦課題の解明を試みている.本レポートはILOの『主要労働市場指標』(KILM)に依拠しており,労働市場指標について地域別と世界全体の推定値にかかわる首尾一貫した一連の統計表を掲載している.更に,労働市場の短期見通しが含まれており,世界中の労働市場の動向に関して予想されるトレンドや動因が分析されている.
『世界雇用情勢2014』は,「雇用なき回復のリスク」に光を当てている.経済活動はほとんどの先進国や新興国で回復し始めている.しかし,労働市場はこれまでの低調さからまだ回復しておらず,グローバルな失業は6%に高止まりし,2億人200万人もの求職者が存在する.失業が持続している状況下で,勤労意欲を阻喪して労働市場を退出する失業者が増えており,危機以前のトレンドと比較した危機関連の仕事のギャップがいっそう拡大している.投資が少ないことに加えて官民の消費が不十分なため,速やかな雇用創出と失業率の低下が阻害されている.特に先進国を中心とした歴史的な低金利は,今までのところ,実物投資ではなく金融投資の急増を誘発しており,雇用創出にはほとんど効果が出ていない.
本レポートは,政策当局は官民の消費の押し上げに役立つより積極的な政策を通じて,弱い総需要に対処する必要があると主張している.加えて,投資と雇用創出を増やすためには採用の不確実性を削減する必要がある.これは,特にさまざまな政策手段の調整を改善することによって達成が可能である.また,失業が多く長期化している国では,労働市場の迅速な回復を阻害しているミスマッチの問題に取り組む際に,積極的労働市場政策が助けになるだろう.最後に,労働市場に対する意気阻喪や構造的失業の増加に対しては,求職者が代替的な産業に就職するのを後押しし,より広範な分野に対して彼らの雇用可能性を高めるための新しいスキルや訓練を奨励することによって取り組むべきである.
目次
要約
序文
要約
1 マクロ経済の挑戦と世界の労働市場動向
先進国では若干の明るい兆候がみられる一方,新興国は減速傾向
失業は2013 年に少しずつ増加し,今後も長期的に高水準にとどまると予想される
若年労働者の労働市場の状況は一層悪化
適正な仕事はどこにあるのか?
高率の非公式性が貧困削減にかかわる持続的な進展を阻害する
失業はより一層長期化しつつある
経済的不確実性が依然として高く,採用にマイナスの効果を及ぼしている
新興国における成長鈍化は労働市場にどう影響しているか?
発展途上世界では中流労働者階級が増加を続けている
要約
補遺:ILO 採用不確実性指標
2 地域別の経済および労働市場の動向
先進国・EU
中央・南東ヨーロッパ(非EU)およびCIS
ラテンアメリカ・カリブ
東アジア
東南アジア・太平洋
南アジア
中東・北アフリカ
サハラ以南アフリカ
3 より強固な労働市場とより包容的な成長のための政策
労働市場と経済成長の低調が続いているため,政策を再考する必要性が生じている
金融面からの刺激で最悪の結末は回避されたが,それには限界があり
悪い結末をもたらす懸念もある
1.労働所得の改善と財政再建策の緩和を通じて総需要の低調に取り組む
2.政策協調の改善を通じて採用の大きな不確実性に取り組む
3.積極的労働市場政策を通じて無活動やスキルのミスマッチに取り組む
結論
参考文献
補遺
付録1.世界と地域別の統計表
付録2.失業予測
付録3.世界と地域別の統計図
付録4.世界全体と地域別の推定に関する注
付録5.世界全体と地域別の予測値に関する注
付録6.世界の雇用情勢――地域グループ
著者紹介
国際労働機関(ILO)
国際労働機関(ILO : International Labor Organization)は1919 年に,社会正義の促進,そして,世界的な平和とその持続を目的として設立された.創立50 周年にあたる1969 年にはノーベル平和賞を受賞している.この機関の事務部門,事業本部,調査研究センター及び出版部門の本拠は,ジュネーブにある国際労働事務局である.その管理運営は,40以上の国にある地域総局及び現地事務所に分散されている.国際労働機関は国連に加盟する機関では独特の三者(政府,使用者,労働者)構成を採用しており,理事会にはこの三者の代表も含まれている.これは,政策策定や計画立案時には,経済を動かす社会的パートナーである労使代表も政府と等しく発言する権利をもっている,という理念に基づくものである.上記の三つの団体は,ILO が後援する各地域での活動や会合に参加するだけでなく,国際労働総会にも出席している.この国際労働総会は,毎年開催されており,世界の労働問題,社会問題を討議する国際フォーラムでもある.
国際労働機関は長い年月にわたり,労働組合,労働者,社会政策,雇用条件,社会保障,企業間の交渉や労働行政などに関する問題に,参加各国の様々な条件を考慮しつつ取り組んできている. 国際労働機関は,40カ国以上からなる地域総局や労使団体間の情報交換を通して,助言や技術的な支援を行っている.この支援活動には,労働者の権利と企業間交渉に対する助言,雇用の促進,小規模な企業の発展を目的とした教育,計画の策定などが含まれる.またさらに,社会保証や労働条件,労働環境の安全性に関するアドバイス,労働に関する統計の比較と公表,労働者教育も行っている.
訳者紹介
田村 勝省(たむら かつよし)
1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.
訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)
『ユーロ 統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望』(一灯舎,2011 年)
『ユーロの崩壊 ヨーロッパの金融失敗からの脱出ルート』(一灯舎,2012 年)
『世界給与・賃金レポート2012/2013 給与・賃金と公平な成長 』(一灯舎,2013 年)
『世界労働レポート2013 経済・社会の構造を修復する』(一灯舎,2014 年)
『世界開発報告2013 仕事 』(一灯舎,2014 年)
『悪い奴ほど合理的 腐敗・暴力・貧困の経済学』(NTT 出版,2014 年)