沿岸と20 万年の人類史 「境界」に生きる人類、文明は海岸で生まれた
更新日:2016/03/28
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・ 目次,序論
概要
世界各地で沿岸部への移住がつづき、現在では、世界の人口の半分が海から約190キロの範囲内で生活している。いまやわれわれは物理的に、そして精神的にも、陸と海の境界に暮らしている。われわれは沿岸という環境に文化的に適応している過程にあり、極めて重要な時期に身をおいている。現代では誰もがみなcoastal(沿岸の、沿岸に関係している)だといえよう。
本書は、沿岸の歴史を六つの時代に分けて分析している。人類がアフリカの内陸部から最初に海にもどったときを起点とし、世界の沿岸に存在してきた継続と変化を掘り起こし、ひとつひとつに光を当てている。著者は、現在の歴史学者を、海より陸を、沿岸の人々より内陸の人々を優先し、沿岸という枠から歴史を見ることをしないとして批判している。そして、真のエデンの園は内陸ではなく沿岸にあり、ホモ・サピエンスは陸と海が出会う沿岸という移行帯で進化した周辺種だと考えるのが妥当であると主張する。内陸中心の歴史を覆すことが必要だと確信した著者は、沿岸と人類の歴史をたどりながら、沿岸は人類の形成において極めて重要な役割を果たし、一方、われわれ人類も沿岸を現在の状態に変えたことを、多くの引用や絵画、写真、地図を用いて論述している。
島国である日本も沿岸との結びつきは深い。東日本大震災は、沿岸で生活するということについて改めて考え直す機会となった。地球の環境危機が叫ばれる現代、われわれは陸と海が出会う人類の真の故郷に帰らなければならない。沿岸に住むだけでなく、沿岸と共存することを学ばなければならない。そうしなければ、われわれの存続も沿岸の存続も不可能である。
目次
序論
第一章 もうひとつのエデンの園
エデンの園の神話
人類の真の故郷としての沿岸
考古学がようやく動く
真のエデンの園:ピナクルポイント
沿岸という移行帯で暮らした人類
石器時代の沿岸部の豊かさ
初期の沿岸文化
スカラ・ブレイ
第二章 古代に海に出た人々と沿岸
人類が最初に到着した沿岸:インド洋岸
環太平洋岸
地中海沿岸:池のほとりのアリやカエル
沿岸の交易帝国
地中海の制海権
北大西洋沿岸
沿岸の精神文化の起源
大西洋の境界地
第三章 近世の大西洋のフロンティア
湿地の仲間、水辺の人間
大西洋岸
舵と鋤を握って:海洋漁業のはじまり
移動型の漁業
沿岸を基礎とする海上帝国
北大西洋文明における内海
海のフロンティア
沿岸に広がった大西洋文化
第四章 沿岸の固定
沿岸とは不安定なもの
沿岸を線にする
沿岸を造る
港湾の誕生
波止場地区の形成
漁村の“最盛期”
地の果て
第五章 海の再発見
海は次第に好きになる味
新しい水平線
海が荒野になった経緯
養生の場だった浜辺
空虚の可能性
崇拝される場所になった浜辺
海をながめる
第六章 沿岸の夢と悪夢
失われた沿岸
無国籍な漁業
港湾の衰退
人の手で造り変えられた沿岸
沿岸の天国と地獄
防壁から荒廃へ
楽園にひそむ危険
結論:沿岸と共存するために
不動産の時代
過去から学ぶ
土の塊を海に浸す
謝辞
訳者あとがき
参考文献
索引
著者紹介
ジョン R. ギリス(John R. Gillis)
歴史学者.
1939 年アメリカ生まれ.アマースト大学卒業後,スタンフォード大学で博士号取得.プリンストン大学助教授,オックスフォード大学客員教授を務め,1976 年ラトガーズ大学教授に就任.現在は同大学名誉教授を務める.ヨーロッパ近代史,おもに社会史と文化史を専門とし,欧米の家族関係,世代関係を研究.近年は地球史に研究領域を広げ,文化地理学と環境史に重点を置く.
邦訳に『若者の社会史――ヨーロッパにおける家族と年齢集団の変貌』(新曜社,1985),『結婚観の歴史人類学――近代イギリス・1600 年~現代』(勁草書房,2006)がある.
50 年前から現在も,夏はメイン州のグレート・ゴット島で暮らし,10 年前からはカリフォルニア州沿岸のバークレー市に生活拠点を置いている.
訳者紹介
近江 美佐(おうみ みさ)
1964 年兵庫県洲本市(淡路島)生まれ.
大阪女学院短期大学英語科,ジョージア州グウィネット・テクニカル・インスティテュート,トラベル・マネジメント学科卒業.英語講師を経て翻訳業に従事.
訳書に『世紀の名作はこうしてつくられた』,『クリスマス・キャロル』がある.
雑誌や電子書籍でエッセイ,コミック,インタビュー記事等の翻訳も手がける.