テクニカル詳細 高齢化時代の資産運用手法

更新日:2015/07/27

テクニカル詳細 高齢化時代の資産運用手法

キャッシュフロー管理と機能的アプローチ

加藤 康之 著

2015年7月 発行

定価 4,000円

ISBN978-4-907600-33-4

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・  はじめに,目次

概要

労働収入の激減や退職金・年金の受取など,個人のキャッシュフローは大きく変化する.退職後の資産運用は退職生活を支える上で極めて重要である.一方で,適切な資産運用は経済にも好循環をもたらすことにもなる.退職者の資産運用は個人にとっても社会全体にとっても極めて重要な課題である.
多くの企業年金

多くの企業年金では,企業が退職後の給付金額を一定に保証する確定給付(DB)型から退職後は責任を持たない確定拠出(DC)型に移行しつつある.団塊の世代の退職という本格的な高齢化時代を迎え,年金運用のみならず,資産運用は今大きく変貌する過程にあると言えるだろう.退職後の資産運用とは増やす資産運用ではなく,退職後をつつがなく暮らすための資産運用である.つまり,死ぬ前に資産がなくならないための資産運用である.これまで,資産運用の主流は資産形成期にある投資家がいかに資産を増やしていくのかに焦点が当てられていた.しかし,退職後は資産を増やすことは必ずしも目的にはならない.資産運用の目的は多様化していると言える.団塊の世代が退職を迎えた後の生活を豊かにするための資産運用が,今後の最も重要な資産運用サービスではないだろうか.

本書は,退職後の個人に資産運用サービスを提供する専門家のために書かれた本であり3部から構成されている.第1 部は導入編であり,退職後のキャッシュフローと資産が減っていく中での資産運用という退職後独特の特性について解説している.第2 部は本書の中核部分をなすポートフォリオ構築技術を「機能」,「リスク」,「ファクター」という3 つの切り口で解説している.伝統的な平均分散法にこだわらず,退職後の資産管理に適切な方法を提示している.第3 部ではキャッシュフローの管理技術について解説している.ここでいうキャッシュフローの管理とは,退職金のようなまとまった資金を投資するタイミング,ポートフォリオを最適なものに保つためのリバランス,そして,資産の引出しと枯渇リスク管理である.

高齢化時代において,どのような資産運用サービスが必要になるのかは,今後手探りで見つけて行くことになろう.本書は,今後最も重要になる退職後の資産運用サービスを構築する上で有益な一冊となるだろう.

目次

はじめに

―第1部― 退職後のリスクと資産運用の特性

第1章 退職後と資金

1. 退職後の生活と資金

2. 退職後の生活コスト

3. 退職後の収入と必要な自己資金

4. ALMとしてみる退職後の資産運用

第2章 退職後のリスクと山下りの資産運用

1. 退職者が直面する3つのリスク

2. リスク1:年金制度のリスク

3. リスク2:インフレのリスク

4. リスク3:長寿のリスク

5. 「山下り」の資産運用とテールリスク

―第2部― ポートフォリオ構築技術

第3章 資産運用の機能的視点と機能ポートフォリオ

1. 金融の機能的視点

2. 資産運用の伝統的な分類

3. 投資家が求める機能と資産運用市場

4. 機能的視点によるアプローチとLDI

5. 機能インデックスの開発

6. 成長機能インデックス

7. インフレヘッジ機能インデックス

8. インカム機能インデックス

第4章 階層分析法(AHP)による機能ポートフォリオの最適化

1. 機能ポートフォリオの最適組合せ-AHPの活用-

2. AHPによる最適ウェイトの決定方法

3. AHP利用の課題

第5章 投資リスクの低減とリスクベースポートフォリオ

1. リスクベースポートフォリオ

2. リスクベースポートフォリオの分類

3. リスク最適化型ポートフォリオ

4. リスク配分型ポートフォリオ

5. ヒューリスティックアプローチによるリスクベースポートフォリオの近似

6. リスクベースポートフォリオのパフォーマンス比較

7. リスクベースポートフォリオのパフォーマンスの源泉

8. 株式リスクベースポートフォリオのパフォーマンスについて

9. マルチアセットクラス運用とリスクベースポートフォリオ

第6章 ファクターアプローチによるリスク管理の精緻化と機能ポートフォリオ

1. リスク管理の課題

2. ファクターアプローチの考え方

3. マルチアセット運用とファクターアプローチ

4. 株式ポートフォリオ構築のファクターアプローチ

5. 今後の課題

第7章 リスクプレミアムとスマートベータ

1. リスクプレミアムとベンチマークインデックス

2. 市場ポートフォリオと投資スタイル

3. 新たなリスクプレミアムと3ファクターモデル

4. ベンチマークの進化とスマートベータ

5. リスクプレミアムの源泉

6. リスクパズル

7. スマートベータの利用とファクター投資

8. GPIFのケーススタディ

―第3部― キャッシュフロー管理技術

第8章 タイミングリスクとドルコスト平均法

1. タイミングリスク

2. 市場の周期と時間分散

3. ドルコスト平均法の分類と有効性

4. ドルコスト平均法のシミュレーション

第9章 継続的なリスク管理とリバランス

1. なぜリバランスするのか

2. リバランスの方法

3. シミュレーションによる検証

第10章 資産の引出しと資産枯渇リスク

1. 資産の引出しと引出し率

2. 引出し率(対当初元本)と資産枯渇リスクの評価(過去シミュレーション)

3. 資産運用パフォーマンスにリンクした引出し率と資産枯渇リスクの評価(過去シミュレーション)

4. 引出し率(対直近資産残高比率)と資産枯渇リスクの評価(過去シミュレーション)

5. リスクの確率的評価と枯渇確率

付録A 金融の機能的視点と金融イノベーションとの関係性と今後の展望

付録B 伝統的投資理論におけるリスク構造の再考

付録C ベンチマークインデックスアンケート調査

索引

著者紹介

加藤 康之(かとう やすゆき)

京都大学大学院経営管理研究部特定教授.
1980 年東京工業大学修士卒業後,(株)野村総合研究所入社,シカゴ,ニューヨーク,ロンドン勤務の後,システムサイエンス部長.1997 年に野村證券(株)へ転籍,2005 年に同社執行役に就任.金融工学研究センター長,フィデューシャリー・サービス研究センター長等を兼任.2011 年から京都大学大学院教授,2015 年から現職.他に日本証券アナリスト協会教育委員会委員,日本取引所グループアドバイザー,全国市町村職員共済組合連合会資産運用委員,国民年金基金連合会資産運用委員,FTSE アドバイザー,トムソン・ロイターアドバイザー,お金のデザインアドバイザー等.専門は投資理論,金融工学.著書に「金融工学辞典」,「初心者のための資産運用入門」(東洋経済),「株式投資の科学」(角川書店),「退職後の資産運用」(一灯社)等.


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