更新日:2014/09/05
・ 序文,目次
過去25 年間に世界中で前例のない変化が生じている.その多くは良い方向への変化である.大陸を越えて,多くの国々が国際的な統合や経済改革,技術的な近代化,民主的参加の道に乗り出している.その結果,数十年間にわたって停滞していた経済が成長し,数世代にわたって収奪に苦しんできた人々が貧困から脱し,数億もの人々が改善した生活条件や国々をまたいだ科学と文化の共有という
利益を享受している.
こうした世界の変化に伴って,多くの機会(チャンス)が常に出現している.しかしそれと同時に,失職や疾病の可能性から,社会不安や環境破壊の懸念に至るまで,新旧の様々なリスクも発生している.このようなリスクは無視していると危機に転じてしまうことがある.さらに,苦労して獲得した利益を逆転させ,そのような利益をもたらした社会的および経済的な改革を危険にさらしかねない.
『世界開発報告2014 ――リスクと機会:開発のためのリスク管理』は次のように主張している.すなわち,解決策は,リスクを回避するために変化を拒否するのではなく,変化がもたらす機会とリスクのために備えることにある.リスクの管理を責任をもって有効に行えば,途上国をはじめそれ以外の諸国の人々に,安全と進歩のための手段を供与できる可能性があろう.
リスクを管理するためには、個々の人たちの努力やイニシアティブ,責任が必須ではあるが,特にリスクが大きい,あるいは長期にわたるシステミックな場合には,支援的な社会環境がなければ,その成功は限定的なものにとどまるだろう.本報告者は次のように主張している.人々はリスク管理を他人と分担することによって,自分の資力を超えるリスクに成功裡に立ち向かうことが可能である.これは社会的および経済的なシステムを通じて行うことができる.それが個人や集団が直面する障害――資源や情報の欠如,認知や言動の面での失敗,市場や公共財の不存在,社会的な外部性や排除など――を克服するのを手助けしてくれる.家計やコミュニティから国家や国際社会に至るまでのシステムには,人々のリスク管理を多種多様ではあるが補完的な形で支援する潜在力がある.
本報告書では,政策当局が提起している最も切迫している次のような疑問のいくつかに焦点を当てる.国家は人々がリスク管理を行うのを助けるに当たってどのような役割を果たすべきか? どのような時にこの役割は直接的な介入策を含むべきであり,どのような時に好意的な環境を整備することにとどまるべきか? 政府はどうしたらみずからのリスク管理を改善することができるか,また,多くの脆弱紛争被災国におけるように,もし政府がそれに失敗,あるいはそのような能力を持っていない場合にはどうなるか? どのような仕組みを通じて,リスク管理を開発アジェンダの主流にすることができるか? そして,特に不可逆的な結末をもたらしかねないものに関して,システミック・リスクの管理に関する集団的行動が失敗した場合,どのようにしたらそれに取り組むことができるか?
本報告書はこのような困難な疑問に取り組むために,政策当局に洞察と勧告を提供している.また,鍵を握る開発主体――市民社会や国家政府から援助グループや国際開発機関までをも含む――との対話や運営,そのような主体からの支援において,指針としての役目を果たすに違いない.