世界開発報告2014 リスクと機会――開発のためのリスク管理

更新日:2014/09/05

世界開発報告2014

リスクと機会――開発のためのリスク管理

世界銀行 編著

田村 勝省 訳

2014年9月 発行

定価 4,500円

ISBN 978-4-907600-09-9

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・  序文,目次

概要

 過去25 年間に世界中で前例のない変化が生じている.その多くは良い方向への変化である.大陸を越えて,多くの国々が国際的な統合や経済改革,技術的な近代化,民主的参加の道に乗り出している.その結果,数十年間にわたって停滞していた経済が成長し,数世代にわたって収奪に苦しんできた人々が貧困から脱し,数億もの人々が改善した生活条件や国々をまたいだ科学と文化の共有という

利益を享受している.
 こうした世界の変化に伴って,多くの機会(チャンス)が常に出現している.しかしそれと同時に,失職や疾病の可能性から,社会不安や環境破壊の懸念に至るまで,新旧の様々なリスクも発生している.このようなリスクは無視していると危機に転じてしまうことがある.さらに,苦労して獲得した利益を逆転させ,そのような利益をもたらした社会的および経済的な改革を危険にさらしかねない.

 『世界開発報告2014 ――リスクと機会:開発のためのリスク管理』は次のように主張している.すなわち,解決策は,リスクを回避するために変化を拒否するのではなく,変化がもたらす機会とリスクのために備えることにある.リスクの管理を責任をもって有効に行えば,途上国をはじめそれ以外の諸国の人々に,安全と進歩のための手段を供与できる可能性があろう.

 リスクを管理するためには、個々の人たちの努力やイニシアティブ,責任が必須ではあるが,特にリスクが大きい,あるいは長期にわたるシステミックな場合には,支援的な社会環境がなければ,その成功は限定的なものにとどまるだろう.本報告者は次のように主張している.人々はリスク管理を他人と分担することによって,自分の資力を超えるリスクに成功裡に立ち向かうことが可能である.これは社会的および経済的なシステムを通じて行うことができる.それが個人や集団が直面する障害――資源や情報の欠如,認知や言動の面での失敗,市場や公共財の不存在,社会的な外部性や排除など――を克服するのを手助けしてくれる.家計やコミュニティから国家や国際社会に至るまでのシステムには,人々のリスク管理を多種多様ではあるが補完的な形で支援する潜在力がある.

 本報告書では,政策当局が提起している最も切迫している次のような疑問のいくつかに焦点を当てる.国家は人々がリスク管理を行うのを助けるに当たってどのような役割を果たすべきか? どのような時にこの役割は直接的な介入策を含むべきであり,どのような時に好意的な環境を整備することにとどまるべきか? 政府はどうしたらみずからのリスク管理を改善することができるか,また,多くの脆弱紛争被災国におけるように,もし政府がそれに失敗,あるいはそのような能力を持っていない場合にはどうなるか? どのような仕組みを通じて,リスク管理を開発アジェンダの主流にすることができるか? そして,特に不可逆的な結末をもたらしかねないものに関して,システミック・リスクの管理に関する集団的行動が失敗した場合,どのようにしたらそれに取り組むことができるか?

 本報告書はこのような困難な疑問に取り組むために,政策当局に洞察と勧告を提供している.また,鍵を握る開発主体――市民社会や国家政府から援助グループや国際開発機関までをも含む――との対話や運営,そのような主体からの支援において,指針としての役目を果たすに違いない.

目次

序文

謝辞

概観 リスクと機会

概観

リスクは負担であると同時に機会でもある

リスク管理は開発にとって強力な手段になり得る

有効なリスク管理は何を必要とするか?

理想を越えて:リスク管理の障害

前進する方法:リスク管理にかかわる全体論的なアプローチ

家計

コミュニティ

企業部門

金融システム

マクロ経済

国際社会

リスク管理を主流化するための制度改革

結論:より良いリスク管理のための公的措置にかかわる5 つの原則

結びへの一言

参考文献

Part I リスク管理のファンダメンタルズ

CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段になり得る

リスクと機会

リスク管理がなぜ開発に関係するのか?

リスク管理は何を必要とするのか?

リスク管理は費用効果的――しかし常に実施可能とは限らない

参考文献

スポットライト1 予想外の事態に備える:フィリピンとコロンビアにおける災害リスク管理に対する統合的アプローチ

CHAPTER 2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法

適切なリスク管理の機会を失う

なぜ人々は自分自身のリスクを上手に管理することができないのだろうか?

個人のコントロールを超えた障害がリスク管理を阻害する

国家はなぜうまく間隙を埋められないのか?

すべてを総合する:政策の順序

障害を乗り越える方法:政策の優先順位を選択する

参考文献

スポットライト2 貧困層の食料消費を保護する:エチオピアとエルサルバドルにおけるセーフティネットの役割

PART II 重要な社会システム

CHAPTER 3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である

良い時も悪い時も一緒

家計はどのようなリスクに直面し,どのように対処しているか?

家計はリスクを管理する準備をどのように行い,どのような障害に直面するか?

政府はどうしたら家計のために保護を強化し,より良い機会を発展させることができるか?

すべてを総合する:政策実施のための指針

参考文献

スポットライト3 トルコとキルギスにおける国民皆健康保険の適用に向かう動き

CHPTER 4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる

コミュニティは多くのリスクに直面している

リスク管理者としてのコミュニティ

保険提供者としてのコミュニティ

保護提供者としてのコミュニティ

結束力や結び付きの強いコミュニティはより有効である

地方リスク管理を改善するための公的政策

すべてを総合する:強靭なコミュニティを発展させるための政策原則と研究の優先課題

参考文献

スポットライト4 刑事司法が十分でない場合:ブラジルと南アフリカの都市部における統合的な犯罪・暴力の防止策

CHAPTER 5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する

仕事を創出し革新を支援する

企業部門として人々がリスクに立ち向かうのを支援する方法

企業部門における柔軟性と公式性は人々の強靭性と繁栄を改善する

政府は企業部門が柔軟性と公式性を高めるのをどうしたら

支援することができるか?

すべてを総合する

参考文献

スポットライト5 労働市場の柔軟性を増大させる動き:インドの平坦ではない道

CHAPTER 6 リスク管理に金融システムが果たす役割:金融ツールが多いほど金融危機は少なくなる

金融システムはリスク管理という社会的に有益な役割を果たすことができる

良いリスク管理のためには,人々は広範な金融ツールを必要とする

金融危機は人々に損害をもたらす:どのようにしたら防げるか?

金融について発展と安定性の間の緊張関係を解決する

政策勧告の要約

参考文献

スポットライト6 チェコ,ペルー,ケニアにおけるグローバルな経済的ショックに対する強靭性の構築

CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する:政策でより良い結果を出すためにより強固な制度を構築する

健全なマクロ経済政策を通じて強靭性を高め機会を有効に活用する

マクロ経済政策の目標を総合的な安定性に向ける

安定化政策や長期的社会プログラムの資金を調達するために持続可能な財政資源を創出する

すべてを総合する:マクロ経済レベルのリスク管理を改善するために,回避すべきこと,および実施すべきこと

参考文献

スポットライト7 国境なき疾病:流行病のリスクを管理する

CHAPTER8 国際社会の役割:リスクが各国の能力を超過する場合

グローバルな問題はグローバルなプレイヤーを求めている

どのような状況が国際社会の行動を求めるのか,それはなぜか?

国際社会はどうやってリスク管理の質を高めるか?

グローバル・リスクの解決に国際社会はどの程度有効なのか?

政策がもつ意味と各国が実施すべきこと

参考文献

政策改革の焦点 リスク管理を開発アジェンダの主流にする:主要な制度改革

補遺

略号

データ注

背景論文

主要指標

テクニカル・ノート

索引

著者紹介

世界銀行

http://www.worldbank.org/

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.

訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)
『世界給与・賃金レポート2012/2013 給与・賃金と公平な成長 』(一灯舎,2013 年)
『世界労働レポート2013  経済・社会の構造を修復する』(一灯舎,2014 年)
『世界開発報告2013 仕事 』(一灯舎,2014 年)
『世界雇用情勢2014 雇用なき回復のリスク?』(一灯舎,2014 年)
『ヨーロッパの行き詰まり ユーロ危機は今後どうなるのか』(一灯舎,2014 年)
『悪い奴ほど合理的 腐敗・暴力・貧困の経済学』(NTT 出版,2014 年)


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